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GSCの歩み

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成果と今後

システム情報生物学研究グループ
生命システムの理解に向けて

泰地(たいじ)真弘人

理研基幹研究所 先端計算科学領域システム計算生物学研究グループ グループディレクター

2008年3月までシステム情報生物学研究グループプロジェクト副ディレクター、2008年4月より現職。高速分子シミュレーション研究チームのチームリーダーを兼任。科学計算用の専用コンピューターを学生時代から開発しつづけてきた。

 システム情報生物学研究グループでは、高速分子シミュレーション研究チーム、情報伝達システムバイオロジー研究チーム、オミックス情報統合化研究チームの3チームが、情報科学・計算科学の手法ならびに実験的手法を用いて、生命システムをさまざまなレベルで統合的に理解することを目指している。
 とくに、高性能計算機による大規模シミュレーション・大量情報処理による生命科学の推進、近年の実験のハイスループット化に対応したデータ処理技術の追究、それらの応用として情報生命科学と実験生物科学を融合させたシステムバイオロジー研究の推進に力を注いで研究をおこなっている。

世界最高速の高性能分子シミュレーションを実現

 高速分子シミュレーション研究チームでは、タンパク質のふるまいを分子シミュレーションにより原子レベルで解明することを目指すとともに、シミュレーションを用いた分子設計により生命科学に貢献することを目指している。実用的な計算をおこなうためには膨大な計算能力が必要となるため、高速の分子動力学計算専用計算機MDGRAPE-3を開発し、2006年に完成させた(写真)。このシステムにより、世界で初めて1ペタフロップス(1秒あたり1000兆回計算)の理論性能を実現した。
 実際に、この計算機を用いて酵母のタンパク質Sup35の凝集過程のシミュレーションをおこない、2006年度のゴードンベル賞(ピーク性能部門、Honorable Mention)を受賞した。現在は、このシステムを用いたシミュレーションにより、薬剤設計などの分子設計への応用、タンパク質の機能解析、フォールディング過程の解析などの幅広い応用を理研内外の実験研究者と連携しながらおこなっている。たとえば、情報伝達システムバイオロジー研究チームと共同で、システム生物学の分子的基盤理解のために信号伝達系のタンパク質相互作用の計算をおこない、実験との比較により新しい知見を得ている。

MDGRAPE-3システム

横浜研究所の西棟5階にあるMDGRAPE-3システム。138台のサーバーが並ぶ姿は壮観。

遺伝子機能とネットワーク解析のアルゴリズム

細胞制御機構のシステム解明

発がんにかかわる受容体型チロシンキナーゼ(receptor tyrosine kinase:RTK)等を中心に、細胞内の情報伝達のネットワークを実験データと数理モデルに基づいて解析している。細胞は外的刺激に対して、安定性を維持しつつも、成長・分化などダイナミックな運命決定をおこなっている。数理解析は現象の背後にある制御メカニズムをあぶりだすことができる。

 情報伝達システムバイオロジー研究チームではErbB受容体シグナル伝達系を対象として、細胞実験データを基礎とした速度論的な数理解析、遺伝子発現制御解析、ネットワーク予測、分子間相互作用解析と、その情報学的手法の開発をおこなってきた。こうした計算機による手法と実験的手法を高いレベルで組み合わせることにより、ErbB受容体活性化による初期の遺伝子発現が、質的な制御ではなく、量的な制御であること、この量的な制御がErbB受容体で決定されることを明らかにすることができた。
 また、初期の遺伝子発現とシグナル伝達のクロストークおよびフィードバックが、量的なちがいでしかなかった遺伝子発現を二相的で質的なものに変化させ、細胞制御を司っている可能性を示した。このErbB4受容体シグナルの速度論モデルは、ベンチマーク問題として海外の研究者に広く参照されている。
 一方で、ネットワーク解析のための未知のシグナル経路の構造予測・パラメータ予測に用いる遺伝的アルゴリズムも開発している。そのほか、シグナル伝達の理論・実験研究者から構成される国際的なRTK(Receptor Tyrosine Kinase)コンソーシアムを2005年に立ち上げ、年1〜2回の国際ワークショップを開催している。共同研究や情報交換を通じて、 常にレベルの高い研究を維持できている。

バイオインフォマティクスによる新システム

ゲノムデータベース
「オミックブラウズ」の検索画面

ゲノム科学研究で蓄積されたさまざまな情報を統合的に検索および可視化できる。

 オミックス情報統合化研究チームでは、一貫してデータ統合解析のためのバイオインフォマティクスを研究開発し、データの統合解析を必要とする多くの実験系ラボとデータ解析の共同研究をおこなっている。
 たとえば、GSC動物グループのENU変異マウス解析では、本チームが開発した「疾患原因遺伝子推定システム(PosMed)」を用いることで、原因遺伝子探索が効率化され、50件以上の成功例が出た。このシステムはインターネット上でもサービスされており、国内および海外で頻繁に利用されている。また、理研内においても植物科学研究センター、免疫・アレルギー科学総合研究センター、バイオリソースセンターで、DNAチップによる実験データが大量に産出されており、本チームが開発した統計解析技術やデータ統合閲覧システムが基盤技術として使われている。さらに、理研総合データベースにおいては、本チームが開発した統合検索技術がコア技術として採用され、理研のデータ収集やデータ公開インフラとしても機能している。一方で、ゲノムアノテーション統合化ソフトウェア「オミックブラウズ」をオープンソースで公開し、数百種類のデータベースを統合化してインターネットで世界中に提供している。

すべては生命システムの理解のために

 今後はさらに高性能計算、情報・統計解析技術と生命科学の融合領域の研究を推進し、生命のシステム的理解をめざす。そのために、将来利用可能になる大規模な計算能力、大規模なデータ群を活かした新しい計算生命学、実験と計算が緊密に連携して進めるシステム生物学の展開をめざして研究を進める。とくに発生等を含む細胞集団レベルでのシステム生物学、環境レベルでのシステム解析としてのメタゲノミクス、生物のシステム的理解に基づく合成生物学についても今後取り組みを進める。
 また、引き続き生物学の定量化が急速に進行する中で、各種のデータを統合して扱う枠組みが今後ますます重要になる。そのための情報技術とサービスにも積極的に取り組む。