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成果と今後

植物ゲノム機能情報研究グループ
シロイヌナズナの変異体を収集、解析して、生産力向上に役立つ遺伝子探索を進める

篠崎一雄

理研横浜研究所植物科学研究センター センター長

1999 年から2005年まで、植物ゲノム機能情報研究グループプロジェクトディレクターとして、植物ゲノム研究を牽引し、同年に植物科学研究センターセンター長に着任。安定した食糧供給やエネルギー生産、環境問題の解決のために、植物の生産性向上をめざした発展的な研究を推進している。

 シロイヌナズナは実験室で栽培でき、種子が約3カ月で採取できることから、植物の生理機能にかかわる遺伝子を解析するためのモデル植物として幅広く利用されてきた。また、高等植物で最小のゲノムをもつため、1990年代にはシロイヌナズナをモデルとした植物ゲノム解析研究が世界的に進められ、2000年には、日本を含む国際協力によって、全ゲノムの配列解読が終了した。
  その結果、約2万6000個のタンパク質をコードする遺伝子が予測されたが、それらの機能や発現に関しては大部分が不明であった。これらの遺伝子の機能や発現を解析するためには、すべての遺伝子について、その変異体やmRNAのコピーであるcDNAを収集して、網羅的に解析する必要があり、その手法の開発と効率のよい解析システムの構築が求められた。
  1999年にGSC内に設けられた旧植物ゲノム機能情報研究グループは、松井 南(現 理研植物科学研究センター植物ゲノム機能研究グループ ・グループディレクター)をチームリーダーにむかえ、2006年には植物科学研究センターに移されて現在に至っている。

変異体をつくりだすさまざまな技術

 最初の5年間で、トランスポゾン挿入変異による1万8000系統の遺伝子欠損型の変異体作成と、挿入部位データベースの構築をおこなった。一方の機能付加型の変異体としては、転写エンハンサー配列をゲノムに挿入した変異体を作り、7万系統以上のアクティベーションタグライン*1を作製した。
  これらについては、私たちのグループにおいて、環境応答、葉緑体機能、形態形成等の研究素材として使うとともに、理研バイオリソースセンターと共同で、 国内外の研究者への提供をおこなっている。
  トランスポゾン変異体は、染色体の中の一カ所にのみ、トランスポゾンの挿入がおきるため、挿入部位の遺伝子とその変異体の形質を調べることが容易である。この点を利用し、単一の遺伝子だけが破壊された変異体系統である「シングル遺伝子変異体系統」の作成も進めている。こうした変異体の表現型解析をおこない、遺伝子の機能を推定するフェノーム解析については、植物科学研究センターに場所を移して継続して進めている。

*1 アクティベーションタグライン
未知のゲノム配列にエンハンサーを含むT-DNA(タグ)を挿入することにより作製した変異体。T-DNAはアグロバクテリアの感染を介して植物ゲノム中にランダムに挿入される。エンハンサーによって挿入位置に近い遺伝子を過剰発現させることができるため、突然変異体は優性の表現型を示す。また、T-DNAに隣接する遺伝子を同定することにより、変異の原因遺伝子を特定することができる。

収集されたシロイヌナズナのさまざまな変異体

アクティベーションタギング法、トランスポゾン挿入法などにより作製した多様な変異体。葉の形や大きさが異なるもの、花成の遅いものなど、これまでに約10万系統の変異体を収集している。

1万8000もの完全長cDNAを大規模に収集

 シークエンスによって多くの遺伝子が推定されたが、それらが実際に発現して機能するのかどうかは不明であった。そこで私たちは、対象とする遺伝子がmRNAに転写され、タンパク質をコードすることを確かめるために、その遺伝子の全長cDNAを単離し、その構造を解析することにした。完全長cDNAを収集することで遺伝子の実体を突き止めれば、コードするタンパク質の機能解析のための重要なツールとして利用できる。
  完全長cDNAについては、遺伝子機能研究グループとともに、シロイヌナズナのゲノム上にコードされる遺伝子の約60%にあたる1万8,000種類以上の完全長cDNAの収集と機能予測をおこない、世界最大規模の収集をおこなった。さらに、これらを国内外の研究に役立てるために理研バイオリソースセンター実験植物開発室とともに、遺伝子リソースや変異体リソースのコミュニティーへの配布を進めてきた。その結果、これらのゲノムリソースは広く世界的に利用され、「RIKEN」の名前を世界に広めることに貢献した。
  一方、完全長cDNAを用いて効率的な遺伝子解析をするために、機能付加型のトランスジェニック植物の作製と多数の変異体のスクリーニングをおこなった。たとえば、完全長cDNAを過剰発現させた植物体を用いた新たな遺伝子機能探索システム(FOX hunting system :Full-length cDNA OvereXpressor gene hunting system)を開発し、この手法で表現型に異常のあるトランスジェニック植物の原因遺伝子を解析した。

FOX hunting system(フォックスハンティングシステム)

植物の完全長cDNAからなる「アグロバクテリアライブラリー」を用い、一回の形質転換で、ある特定の遺伝子が強調されたさまざまな形質の植物体を効率よく作製することができるシステム。完全長cDNAがあれば、その増幅による影響をすぐに調べることができるため、ゲノム配列の解析をすることなく原因遺伝子を同定することができる。

  FOX hunting systemでは、完全長cDNAとトランスジェニック植物作製を融合させることでリソースを作るため、理研においても非常にユニークな変異体リソースとなる。さらに、農林水産省 農業生物資源研究所と共同で、イネの完全長cDNAを利用した同システムのラインも作り、イネ遺伝子をシロイヌナズナで過剰発現させることでの機能解析を進めている。

植物の生命現象の統合的な理解と応用

 さまざまな植物ゲノム配列の解読が進められることで、ゲノム情報を基にした新しい研究への転換が進められている。植物ゲノム研究では、「ゲノム上の遺伝子の機能解読」、「遺伝子発現プロファイル解析」、さらに「これらが高次に相互作用する遺伝子発現ネットワーク解析」、「それぞれの遺伝子にコードされたタンパク質相互作用によるタンパク質ネットワーク解析」が重要な研究課題になる。また、 植物には、植物界全体で約20万種、シロイヌナズナでは約5000種もの多様な代謝産物が存在すると推定されており、私たちは、糖、脂質、アミノ酸や二次代謝産物の網羅的なプロファイル解析も進めている。ゲノム解析から始まり、遺伝子発現解析のトランスクリプトーム解析、タンパク質のプロファイル解析のためのプロテオーム解析、そして低分子の代謝産物のプロファイル解析のためのメタボローム解析は、生命現象の理解のために必須の大規模解析であるが、こうした解析は植物科学研究センターにおいて発展的に進められている。
  今後は、シロイヌナズナを利用した基礎研究から、作物、樹木完全長cDNAを利用した応用研究まで発展させていきたいと考えている。また、植物の生産力を向上させ、食料、エネルギー、バイオマス生産、環境問題などの地球規模の諸問題の解決、持続的社会の構築に貢献するために、15年にわたる長期プランを提案し、研究プロジェクトを進めている。

構築された表現型データベースの例

収集した約4000の変異体を系統的に分類し、原因遺伝子の情報とともに写真付データベースとして開示している。種子の大きさや開花に関する変異など、農業上重要な新規の変異体も多く含まれている。