ナビゲーションをスキップ

GSCの歩み

参加登録・名簿について

情報交換、共同研究などを活性化するためにメンバーを募っております。

ご登録は事務局まで

成果と今後

ゲノム機能情報研究グループ
ヒト疾患のモデルマウスを開発し、リソースとして充実させる

城石俊彦

大学共同利用機関法人 情報・システム研究機構 国立遺伝学研究所 系統生物研究センター 哺乳動物遺伝研究室 教授

2008年3月までゲノム機能情報研究グループプロジェクトディレクターと、国立遺伝学研究所哺乳動物遺伝研究室教授を併任。ナショナルバイオリソースプロジェクトの研究を牽引し、GSCではマウスENUミュータジェネシスを推進した。

この10年間のゲノム科学は「配列の解読から機能の解明へ」と向かってきた。ゲノム機能を明らかにする有力な方法論に、遺伝子機能が異常となった突然変異体を多数作り出し、それらの表現型を詳細に解析するというものがあるが、そのための大規模なプロジェクトが約10年前から各国で始まった。GSCにおいては、1999年よりマウスをモデル生物として、化学変異原のエチルニトロソウレア(ENU)を用いた大規模な「マウスミュータジェネシスプロジェクト」を本格的に開始した。さらに、ヒト疾患のモデルを含む多数の突然変異マウスの開発もおこない、これらを用いて遺伝子機能解析をおこなってきた。2002年からは、文部科学省の委託事業である「ナショナルバイオリソースプロジェクト」にも参加し、生活習慣病や痴呆のモデル動物の開発を進めてきた。以下に、主な成果について述べる。

ヒト疾患のモデルマウス候補の探索

 ヒト疾患の病態の理解に基づいて400項目におよぶ体系的かつ網羅的な表現型解析プラットフォームを構築し、マウスを対象に、1万3,000個体を超える優性・劣性変異スクリーニングを実施した。その結果、400系統以上のヒト疾患モデル候補となる突然変異体を開発し、このうち348系統を理研バイオリソースセンターへ寄託した。また、原因遺伝子同定のためのSNPsマーカーを利用したハイスループットなマッピングシステムを構築し、248系統については原因遺伝子の染色体領域を明らかにした。
  さらに、オミックス情報統合化研究チームと共同で開発した「疾患原因遺伝子推論システム」を用いて原因遺伝子探索の効率化をおこない、62系統については原因遺伝子を同定した。

具体的なモデルマウスを開発

340種以上の突然変異マウスをデータベースに登録

写真左は、開発されたII型糖尿病モデルマウス(右は同腹で生まれた正常マウス)。2007年3月現在、348系統の表現型の突然変異マウスがデータベースに登録されているほか、約1万個体分の精子が液体窒素のタンク中に冷凍保存されている。変異マウスの希望者には、理研バイオリソースセンター(www.brc.riken.jp/lab/animal/en/gscmouse.shtml)を通じて提供される。

 ヒト疾患モデル候補として開発された多数の突然変異体系統について、詳細かつ包括的な表現型特性解析や、原因遺伝子変異の同定と機能解析をおこない、糖尿病モデル、高脂血症モデル、発がんモデル、高血圧モデル、骨粗鬆症モデル等、50系統を超える生活習慣病モデルの開発に成功した。
  さらに、行動異常、難聴や腎機能異常など、生活習慣病以外の有用なモデルの開発にも成功した。あわせて70系統を超すこれらのモデルのうち、半数以上で、その原因遺伝子と変異の同定に成功しており、これらの中には、従来、当該疾患の発症に関与することが知られていなかった遺伝子も含まれており、ヒトの疾患の発症機構の理解に大きく貢献すると期待される。

高速のスクリーニングシステムを構築

 1万系統におよぶENU変異マウス群(変異マウスライブラリー)から、標的遺伝子に点突然変異*1をもつ系統を、高速でスクリーニングできるシステムを構築した。その結果、2006年度にはスクリーニング対象の標的遺伝子数が251に上った。これらの遺伝子の多くは外部研究者の要望によるもので、全遺伝子の70%以上を占めている。発見した変異数も400を超え、そのうち、コーディング配列上の変異は、アミノ酸置換61%、ナンセンス変異やスプライシング変異10%、 残り29%は同義置換であった。
  これまでに、70系統以上をマウスに復元し、外部ユーザーとともに、それぞれの遺伝子の機能解明を進めている。すでに、統合失調症モデル、うつ病モデル、多指症モデルなどを確立した。
  このような成果の蓄積の上に、今後は、広範なライフサイエンスの研究分野を支える知的基盤としての「バイオリソースの整備」をめざし、理研バイオリソースセンターとともに、以下の4つの研究事業を展開していく計画である。

*1 点突然変異
DNA複製のエラーや化学物質、放射線などで引き起こされる突然変異のうち、配列中の塩基がただ1つほかの塩基に置き換わる突然変異。

1. 日本版マウスクリニック用プラットホーム

 ENUミュータジェネシスで実施してきた表現型解析プラットホームを階層的なマウス表現型解析システムに改良し、「日本版マウスクリニック用プラットホーム」として再構築する。ここでは、主に理研バイオリソースセンターに寄託されている突然変異マウス系統(ENU誘発、遺伝子ノックアウト変異マウス等)の表現型解析を実施し、マウスリソースの付加価値の向上に結びつく表現型データのアノテーションをおこなう。

2. 表現型解析システムの開発

 理研バイオリソースセンター内の多くの変異体マウスにヒト疾患モデルとしての価値を付加するため、プロテオミクスやin vivoイメージング等の先進的技法を用いて、より高感度な表現型解析システムの開発をおこなう。
  さらに、研究者コミュニティーや先端的臨床研究機関と連携しながら、理研バイオリソースセンター内の特徴的なモデル系統を対象として研究開発をおこない、トランスレーショナル・リサーチ研究をはじめとするヒト疾患研究に有用なモデルの開発や、新規ヒト疾患関連遺伝子の同定をおこなう。

3. ライブラリーの充実

 理研の変異マウスライブラリーは、タンパク質をコードする配列上に18万のアミノ酸置換系統と3万の遺伝子ノックアウト相当の変異系統をもつ本邦独自の逆遺伝学的リソースである。欧米の大規模プロジェクトに先がけておこなわれたこのライブラリーづくりを、研究者コミュニティーとの連携をさらに広げることでより大規模に展開する。独自性と優位性をより高めるため、ライブラリーの増強、変異発見システムの高速化、機能変化検出の一次スクリーン法整備なども並行して進めていく。

4. 表現型情報の国際共有化

 マウスの表現型情報を世界的規模で統合していくために、オントロジー技術*2を用いた語彙基盤の標準化と、データの生産基盤である表現型プラットフォームに関する情報共有が、国際的な課題となっている。今後、これらの技術を用いた表現型データベース構築をおこない、ENU誘発マウスのみならず理研バイオリソースセンターが保有する変異マウスをこのデータベースに格納することにより、全世界の20%におよぶ日本のマウスリソースの表現型情報を国際共有する基盤を築いていく。

*2 オントロジー技術
オントロジーとは直訳すると「存在論」のこと。概念や用語の仕様について議論することで、ここでは、新たな語彙の基盤をつくるための技術を指す。

ENUミュータジェネシスプロジェクト

マウスの遺伝子にランダムな突然変異を引きおこし、現れた表現形質を解析することで、遺伝子機能を解明していく。

形質変異の原因となる遺伝子を表現型情報から推論的に予測するシステム(PosMed)を開発。